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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)241号 判決 1957年2月07日

上告人 小川長太郎

被上告人 藍畑村農業委員会 外一名

訴訟代理人 坂井俊雄 外二名

主文

原判決を破棄する。

第一審判決中徳島県名西郡藍畑村大字高畑字中須一六九五番畑四反二畝一二歩の内八畝二六歩及び同所同番同畑の内八畝一六歩、同所一九四一番畑一反三畝一六歩の内六畝一六歩に対し被上告人藍畑村農地委員会が昭和二三年一一月一日樹立した買収計画を取り消した部分及び右買収計画に関し被上告人徳島県農地委員会がした訴願棄却の裁決を取り消した部分(第一審判決主文第一、二項)を除き、その余の部分を取り消す。

徳島県名西郡藍畑村大字東覚円字中道東六九一番畑一反二畝一九歩及び同村大字高畑字北裏二、三七一番畑一反一三歩に対し被上告人藍畑村農地委員会が昭和二三年一一月一日樹立した買収計画及び右買収計画に関し被上告人徳島県農地委員会がした訴願棄却の裁決を取り消す。

被上告人らの控訴を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告理由第二点について。

論旨は、原判決が自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)六条の五の農地買収計画を定めるに当り、本件小作地の保有面積の算定は遡及買収基準日によるべきものと判示したのに対し、右算定は買収計画時によるべきものであつて、従つて、原判決には自創法の解釈を誤つた違法あり、破棄を免れないと主張する。しかし自創法六条の二及び五は、当該農地の条件が基準日以後変動した農地について「基準日現在における事実に基いて」農地買収計画を定めると規定しながら、その場合の小作地保有面積の計算については何等の規定をしていないのみならず、同条二項はかゝる変動があつても一定の事由に該当する場合は遡及買収をしない旨を規定しているのであるから、遡及基準日に小作地であつてもその後買収計画樹立までに賃貸借契約等が適法かつ正当に解約され、右二項第一号に該当する農地は保有面積計算の場合にも小作地に算入しない趣旨と解するを相当とする。従つて、買収計画樹立当時すでに自作地となつている場合には、その農地の面積を保有小作地の算定にあたり小作地として計算することは許されないと解すべきであるところ、原判決の確定するところによれば、第一審判決記載の第二目録の農地の中徳島県名西郡藍畑村大字高畑字中須一六九五番畑四畝二八歩及び同所一、八七三番の一畑五畝歩は、同法六条の二、二項一号に該当し買収計画当時すでに自作地となつているのであるから、上告人の小作地の保有面積を計算するについては、これを上告人の小作地として計算することは許されないものといわなければならない。しかるに、原判決は、「現在適法に返還を受けた自作地であつても、昭和二〇年一一月二三日当時小作地であつたものを加えて地主の同日現在の所有小作地の面積を算定」すべき旨を判示しているから、この点において原判決は、法令の解釈を誤つた違法があり、また本件買収計画が、かかる算定のもとに行われたものであることは原判決の確定するところであるから、結局本件買収計画及びこれを是認した本件訴願裁決は共に違法であつて、その取消を求める上告人の本訴請求は理由があり、これを棄却した原判決は、この点において、他の論点につき判断するまでもなく、破棄せられなければならない。そして上述の理由により保有小作地に算入することを許されない農地以外の部分については、先ず小作地として保有せしむべき農地を除き、その余の部分につき遡及買収計画を樹立すべきであるところ、どの農地を小作地として保有せしめるかというような買収計画の内容に亘る事柄は、農業委員会において決定すべきであり、裁判所において判断すべき事項ではないから、結局本件買収計画は全部に亘り取消を免れないのである。しかし、第一審判決が徳島県名西郡藍畑村大字高畑字中須一、六九五番地四反二畝一二歩の内八畝二六歩及び同所同番同畑の内八畝一六歩、同所一、九四一番畑一反三畝一六歩の内六畝一六歩につき買収計画及び訴願裁決の一部を取消したのは、その理由は上述したところと異るけれども、結局正当に帰するから、その取消を求める被上告人らの控訴は棄却することとし、また、徳島県名西郡藍畑村大字東覚円字中道東六九一番畑一反二畝一九歩及び同村大字高畑字北裏二、三七一番畑一反一三歩に対する買収計画及び訴願裁決につき、第一審判決が上告人の請求を容れなかつたのは、上述の理由により違法であり上告人の控訴は理由があるから、第一審判決中この部分はこれを取り消して、上告人の請求を容認することとする。

よつて、民訴四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江俊郎 真野毅 斎藤悠輔)

上告理由

第一点<省略>

第二点

原判決カ訴外原田ヨリ適法ニ返還ヲ受ケタニ筆ノ土地ヲ遡及買収出来ナイト認定シナカラ基準日ニ於テハ尚之ヲ小作地トシテ上告人保有小作地ニ算入シ法定外保有小作地ハ買収カ出来ルト認定シタルハ自作農創設特別措置法第六条ノ二第二項第一号ノ解釈ヲ誤ツタ違法ノ判決テアル。

同法ハ基準日現在小作地テアツタ農地カ其ノ後適法ニ返還ヲ受ケタモノハ遡及買収ハ出来ナイト同時ニ買収計画時ニ自作地テアルモノハ基準日ニ於テモ之ヲ保有小作地ニ算入シナイト云フ趣旨テアル。

自作法第六条ノ五第一項ニヨレハ基準日現在ト買収計画時ニ於テ所有権……市町村農地委員会ハ第六条ノ二第一項ノ請求カナイ場合テモ同日現在ニ於ケル事実ニ基イテ買収計画ヲ定メル事カ出来ル。同法第六条ノ二ノ第二項第一号ニヨリ右土地カ遡及買収出来ナイモノテアル事モ明白テアル。従ソテ同法六条ノ二第二項第一号ニヨリ遡及買収出来ナイ農地ハ基準日ニ於テ小作地テアツテモ之ヲ小作地トシテ保有小作地ニ算入シナイト云フ趣旨テアル。

若シ之ヲ小作地トシテ保有小作地ニ算入シタ為メニ法定外保有小作地ヲ生シタ場合ト然ラサル場合トカ生シタ場合ニ於テ何レモ地主カ適法ニ農地ノ返還ヲ受ケテ居ル前者ハ遡及買収サレ後者ハ全然買収サレナイ不公平カ生スルハカリテナク自作農創設特別措置法ノ精神ヲ滅却スルモノテアル。

即チ同法ハ小作地ヲ法ノ許ス範囲内ニ於テ小作人ニ自作農タラシムルノミナラス小作地ヲ適法ニ返還受ケタ自作農ヲモ保護スルモノテアル。

小作地ヲ適法ニ返還受ケタ自作地ヲ依然基準日ノ小作地トシテ遡及買収計画ニ算入シ法定外小作地ヲ買収スル事ハ自、小作合セテ本件ニ於テハ二町六反ノ法定所有ヲ認メラルルノニ之ヲ超過スレハ格別本件ノ如キ其レ以内ニアル上告人ノ所有地ニ対シテ基準日ノ事実ニ基イテ買収計画ヲ樹立スル事ハ自作法カ自、小作合セテ二町六反ノ保有面積ヲ認メタ趣旨ヲ滅却スルモノテアル。

原判決ハ之ノ点ニ於テ自作法第六条ノ二第二項ノ第一項ノ解釈ヲ誤リ自作法ノ精神ヲ滅却シタ違法ノ判決テアル。

此ノ点ニ於テ原判決ハ破段ヲ免レナイ。 以上

(注・原稿のまま)

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